こいつはもっともだな。生きてこそ堪能出来るものも少なくねぇ。どうせ死んだ後の時間はたっぷりあるんだしな。
だがよ、「かみさん」が向こうで待っているもんでよ。少しぐらいは急ぎ足にもなっちまうかもな。

よぉ、旅の方。
ぬっこぬこの村へようこそだ。

気をつけないと猫に滅ぼされるかもしれませんね

それにしても、にゃんこはかわいい（うっとり

かみさん…
木こりさんは、奥さんを亡くされているのですね？
私が、神に祈りましょう。
同じ場所へ行ける様、あぁでもそれはまだまだ先の話でありますように、と？

確かに。
「猫を吊れ！」とは言えねぇな。
むしろ「猫を吊るなんて、酷いヤツは吊ってしまえ！！」ってなもんだ。

ありがとよ、神父さん。
でもな、あいつのとこへは行けそうにねぇんだよ。こいつが。
俺の「願い事」は既に神さんに叶えてもらったハズだしよ。

願い事…？
神はそんなに狭心じゃないですよ？

そうなのかい？
「神なんて消えちまえ」ってのが俺の願いだったんだが、残念だな。
やや子の名前も決まっていなかったってのによ。あんまりじゃねぇか。

…木こりさん。

その…お子さんは。
お子さんも…？

ありがとよ。あんたも人が良いな。
だが、気にしてくれるな。生きているってことはつまりはそういう結果が待っているってことだ。



解っちゃいるんだが、な。

子供かい？
ああ、一緒だった。その分、寂しい思いはさせなかったんじゃねぇかな。

ハハ、未だに墓に刻む名前も決めてやれてねぇのさ。息子だったのか、娘だったのか。せめてそれだけでも判りゃぁなぁ

父親らしい真似の一つもしてやれなかったのが、少し悔しいぜ。

あー・・・神父さんよ。
これは俺の場合だけれどよ。俺なら、亡骸の傍でいつまでも死を悼んで泣いてくれているヤツよりも、昇る朝日に向かって毅然と歩いてくれるヤツの方が有り難てぇと思うんだよ。
なんつーかよ、後のことを一切合財を任せられる仲ってのは凄ぇ信頼や愛情だと思うからよ。

そう…ですね。
そうなんでしょう。
それでも、聞いてしまった今は、涙が流れてしまいます。
明日には、もう泣かないですよ？

ありがとよ。

いけねぇ。湿っぽくなっちまったな。
今日は休ませてもらうぜ、神父さん。
あんたも身体を大事にな。