ねぇ、知ってる？　あの噂。　あの事件って本当はね……。

…どうも。
うちの羊見ませんでしたか、ホラントさん。
一番ちっこいやつです。これくらいの。

[身振り手振りで大きさを示す。]

あと、ついでに村長も。…呼び出しておいていないのかと問い詰めたい。半日ほど。

[腰には羊の透かし彫りが見事な手巻きの懐中時計をぶら下げている。]

………。
まあ、いいか。探してきますんで、村長が来たら宜しく伝えておいてください。

…それじゃ。まあまた戻ってきますんでそこは心配せんでください。

[足元の羊を抱き上げて、集会場を去っていく。]

時間泥棒？さっさと見つけちまおうさ。
商売あがったりだよ、ホント。

[腰のホルダから仕立て鋏を取り出してジャキジャキと動かして見せる。ホルダの端には蓋に鋏の意匠凝らした時計を下げている]

ホラント、村長見かけたら何でもいいからとっとと片付けちまおうさ、て伝えといておくれ。

あたしはチョイト仮縫いが残ってっからまた後で来るよ。

あぁ忙しい忙しい。あと7分で支度を整え、外に出て馬車をつかまえるのに2分。向こうに着くまで22分といった処かしら。
何故こうも忙しいのかしら。時間がいくらあっても足りはしないわ。
その上時間泥棒ですって？これ以上忙しくなるのは勘弁して欲しいものね。

[胸元のプラチナのネックレスの先端には、竜胆の紋様が刻まれた銀の懐中時計が輝いている]

今日はこの後隣町で麦の先物取引がありますの。
近隣の飢饉からおそらく今年この後値上げが予想されますから、今日は大事な日なんですわ。
遅れる訳にはいかないんですの。

[胸元の時計を開き、時間を気にしている様子]

時間泥棒、ですか。
時間が盗まれるとなると…私も恐らく、行動を止めるでしょうね。
……この時計が無ければ、私はただの人形ですから。

[胸元に付いた金具に、スケルトン式の時計が文字通り『嵌めこまれて』いた。彼自身が時計であり、とある変わり者の細工師の遺作だった。自動巻き式のそれは、動くたびに微かにかちゃりと音がする]

…見つからない。
いつもならそろそろおなかをすかせながらめえめえ言ってるはずなんだが。困った。

[抱えた羊の毛をなでつつ一度集会場に戻ってくる。]

うちの羊見なかったか？今抱えてるのよりちっこいんだが。

羊かい？黒いやつだったら昨日村はずれで草食ってるの見たが…そいつよりは小さくなかったかもしれないねえ。