[指貫の革手袋をはめた手の甲を見やる。
そこには丸い縁取りの中に幾重にも薄い歯車が重なっており、文字盤も針も目を凝らさねば動きが分からぬ程の小さな時計が付いていた]


なんじゃ、もうこんな時間かい。


[コンと時計を叩けば、ポゥと空中に時間だけが浮かび上がる]

昨日も同じ客の護衛をしていたが、はて…？

[首を傾げ、再度時計を叩けば、その光は消えた]

こんばんわじゃ。

村長がここに集まれと言っとったので来てみたのだが、何かあるのか？

あら、また新しい人が…うぅん、最近見知らぬ人が多いわね。
腕の立ちそうな方ですし、ちょっと怖いわ…。

って、ゲルハルト、もう何処に行ってたの！
私が人見知りなんてする訳ないじゃない。いつも仕事で大勢の人と商談をしているというのに。
……本当よ、別に怖くなんか無いんだから。
[と言いながら、ゲルハルトの背中にしがみつく]

おや、今晩は。よい夜ですね、傭兵様。
村長が言うに、時間泥棒の容疑者を集めた、と仰っておりました。

マスターアナ、申し訳在りません。
少々時計が狂って居りました為、調整しておりました。
…はい、判っておりますよ。

[アナの手を慰めるように撫でた]

容疑者ね…あまり嬉しい話ではないけれど。

…黒衣の子供？
う、だからそういう話は夢に出……うぅん、興味が無いからやめてと言ったでしょうにっ。もうっ

[顔を覗かせたアナとも見比べて]

時間泥棒の容疑者？
容疑者ってどんな基準なんじゃか…。

しかしお前さんは確かどこかの主の機械人形と記憶しておったが、その小さいお嬢ちゃんの、なのかね？

よし。ちび共寝たから晩酌晩酌。

[アナの頭をなでつつ]
大丈夫ですよ、マスターアナ。彼らは害を無しては居りませんでした。ただ、人の情に付けこんだ所業をしているだけですから。
確りとしていらっしゃれば、来ることはありませんよ。

[ラドルフの声にアナを見て居た顔を上げ、心なしか嬉しそうに]
はい、現在はマスターアナ…彼女の御屋敷で、当主アナ様に御仕えして居ります。…次期当主、では有りますが。

現在の当主様は名ばかりで御座いまして、病床に。ですから、アナ様が御当主の代わりをしておられます。
私は当主様を代々のマスターと認識し、御仕えしておりますので、現在の実質の当主であるアナ様をマスターとし、御傍に控えております。

[ゲルハルトに撫でられつつ]
もう、そんな事を言うとまた寝所の番をお願いする事になるわよ？
い、いい加減私がそういう話が苦手…コホン、好きではないと覚えて欲しいものだわ。

うぅん、傭兵さんは腕が立ちそうだけど、やっぱりこれだけ大きな人となるとちょっと怖いわね。
[ゲルハルトの背中に隠れたまま、そっとラドルフの姿を見上げている]

なるほどのぅ。
重圧のありそうな立場じゃけど、おぬしが居るなら大丈夫そうじゃのー。

[２人のやりとりを見て目尻を下げる]

おや、イゾルデ様も今晩は。
[テーブルに灰皿を並べつつ]

申し上げます、マスターアナ。
最近、毎日朝まで居りますから、構いません。…マスターアナは、確かに怖いお話は苦手のようですね。

ラドルフ様は、たしかに背も高くがっしりとしていらっしゃいますが…頼れるお方かと。

[ラドルフに向き直り]
申し訳在りません、私の主であるアナ様は、少々人見知りの気が御座いますから…御無礼をお許し下さい。
[深々とお辞儀をした]