[皿の用意をしつつ]

…そうですね、其の通りです。
私の最初のマスターは、マスターアナの曽祖父で御座います。それより代々当主の時計人形として御傍に置いていただいております。

随分大事にされてきているんだな。
職人の腕もあるのだろうが、整備の賜物でもあるのかな。

[近くの椅子に座り、料理を待つ。**]

……という事なの。
私の時計はこの両親の形見のネックレスでもあり、曾祖父が残してくれたゲルハルトでもあり。
私は厳密にはまだ当主ではないので、ゲルハルトは私個人に仕えているという訳ではないのだけど。
病床の祖父にかわり、事業を切り盛りする私の手伝いをしてくれているわ。

はい、マスターアナの御家の当主様はそれはもう大事に整備をしてくださいます。
私自身でも自己メンテナンスは出来ますが、矢張り手が回りませんので、大変助かります。

[アルベリヒとアナの席の前に料理を並べる。思いのほか小奇麗に盛り付けが為されている鮭のムニエルと、新鮮そうなサラダを隣に]

スープがご入用でしたら、御声をおかけくださいませ。

……マスターアナ、私は貴女がお生まれになってから、貴女を当主としてデータを更新しております。

………貴女が生まれてから、私は貴女の人形で御座います。……未だお認めにならないのですね、マスターアナ、貴女の手腕は御爺様がお認めになるほどのもの。胸を張って宜しいかと。

ムニエルとサラダ、いただくわね。パンとスープもお願いするわ。
[アナは椅子に座り、心なしか嬉しそうにナイフとフォークを手にした]

…だって、名目上はまだお祖父様が当主ですもの。
ゲルハルトには助けて貰っているし、感謝しているわ。でも、まだ私を当主と認識するには早すぎるわよ。

了承致しました。オニオンスープとパンで御座います。

[パンの入ったバスケットをテーブルに置き、スープを運んでくる]

……実質はマスターアナが当主で御座いますが…。
私の助けは日常のお手伝い、其れは代々の当主様にも致しておりましたのと同じ事です。
………了承致しました、マスターアナ。

[あまり変わらない表情が心なしか不服そうに見える]

うっ……な、なんでそんなふてくされた顔になるのよ、もう…うー…。

わかったわ、実質貴方にはそういったお手伝いをお願いする事として…まぁ、名義を受け継ぐのはまだもう少し先になるけれどもね。
せめて私が成人してから、かしら。
それまでもそれからもよろしくね、ゲルハルト。

………私は時計人形で御座いますから…ふてくされた顔はしておりません。全くもって。

……はい、了承致しました、マスターアナ。

[表情はどことなく満足げに見える**]

村の教会に赴任してきたメルセデスと申します。
どうぞおみしりおきを。

こんにちは、神父サマ。
昨日のムニエルやスープの残りがまだあるみたいだから、良ければ温めなおそうか。

温めればまだおいしいはず。多分。

[膝の上で羊が一声鳴く。]

そういえば神父サマ、ここへ来る途中に迷える子羊を見かけませんでしたか。
…いや比喩ではなく、本当に子羊なんですが。こいつよりちっこい奴で。

いえ、羊は見かけませんでしたよ。
そうそう。今日は着任のご挨拶に伺っただけでして、前任地に少しばかり残務整理がありましてね、ここへはしばらくは時々しか顔を出せないと思うのですよ。

時の記念日が、私の正式の仕事開始の日でしてね、その日からはずっと顔を出せると思うのですが。
前任地との往復の時にも羊が居ないか気をつけて見ておきましょう。

そろそろ馬車の出る時刻かな?

[そう言うと胸元のクルスに仕込まれた時計で時刻を確認する]

(　ﾟДﾟ)ｙ−~~

そうか。それは大変そうだ。
残務処理が早く終わるよう祈っておく。

馬車も時間通りに出るといいんだが、ここのところどうも…いや、気のせいだとは思うが。

時間泥棒がこの村にも紛れ込んで居ると聞きましたよ。まさか、人生で三度も遭遇する事になるだなんて。

時間は、皆に平等に与えられるもの。どうか、自分以外の時間を盗むだなんて事を思い止まってくれないものかしらね。

煙草の吸いすぎは身体に毒だと思うぞ。

［膝元の羊は煙が嫌いなのかころりと丸まった。］

[…は、首にかけた古びた真鍮のロケットペンダント型の時計を取りだし、少し哀しげな表情を浮かべながら文字盤を見つめる。彼女の時計はアンティークな親指程の大きさの時計。小さい時に死別した母親から譲り受けたもので、50年以上肌身離さず大切に持ち続けている。]

あら。もうこんな時間ね。黒猫のルルにご飯をあげないと。日が沈む前に夕食の支度を済まさないとだわ。
[…は、文字盤から目を離し、大事そうに折り畳むと、服の中にしまい。傍らの黒猫を抱き上げて家路に付いた。]