所帯持ちは大変だな、アル。
フランスパン持ってきているが、食うか？金取るけど。

旅人さんは、ここで泊まりになったんかな。
三食とまでは言わないが、朝食にうちのパンを食わないか？

で、また仕込み中の生地消失事件がだな。
あと、カレンダーをめくった筈なのにめくれてない事件。

うん、ここに寝泊まりさせてもらうつもりだよ。

名はルイだ。
えーと、パン屋さん。…名前を聞かせてもらっても？他の人たちも、よかったら。

出来たてのパンには惹かれるけれど、お値段と味次第かなー。
手始めに何か売ってもらえる？

めくれてないカレンダーって…それは、単にめくり忘れていただけじゃ？

そういえば、この村に来てからランプ用の油が減らないような気がしてるんだけど気のせいかな。

めくったはずのカレンダーが元に戻るなら、使ったはずの油を妖精さんがつぎたしてくれているなんてこともあるのかもしれない。

ぼくはヨハンだよ。
よろしく、ルイ。

そうだなあ、フランスパンにレーズンパン、カレーパンを今持って来てる。

[パンは持って来た籠の中にあるようだ。]

カレンダーだけ、生地消失だけならぼくの勘違いか何かなんだろうけどさ。
日替わりパンのスケジュールでここ数日常連さんともめてばかりでね。
じゃがバターパンは数日前の日替わりメニューだって言ってるのに…。

あと、そうそう。この村を訪れたのは、動機があるんだけど……うーんと。

人を探していてね、その人のために言付かっているものがあるんだ。

何か知らないかな。…そこの、噂話に精を出している君とか。

ランプの油かあ…。
それは便利そう。いやいや。

その手の事件が続いたら、集会場へ人を集めるしきたりなんだよ。この村では。
なんだったかな、時間泥棒…？

[首をひねっている。どうやらうろ覚えらしい。]

言付け。
それは大変だな。用事が早く済むことを祈るよ。

…眠い。ちょっとうたた寝タイム。

[近くの椅子に腰掛け、懐中時計を手にこっくりこっくり。]

よろしく、ヨハン。

［くん、と芳ばしい匂いに鼻をひくつかせた］

ううっ、常に商品を携帯しているなんて、君は勤勉な商売人だね。

えっと、ええと……迷うな……。…じゃあ、レーズンパンを貰う。
こんな時刻にたくさん買い込んでしまうと食べすぎてしまいそうだから、一つだけ。

パンは明日貰おう。

時間泥棒か……まるでおとぎ話のような。

［開かない懐中時計を取り出して、見下ろす］

そういえば伯父がそんな話をしたこともあったかもしれない。
…ただの子供用の物語ではなかったってことなのだろうか。

あ、ありましたっ。
財布、家にあったみたいで…。一旦戻ってみたら、あったんです。
ううん、昨日返却する本の所に一緒にいれたはずだったのですけどね…お騒がせしました。

…うん、そう。人探し。

詳しいことは曖昧で、如何ともし難いんだけれど…。

［懐中時計を掲げ］

この時計に対となる、鍵を持っている人。
……知らない？

…そうか、……うん、…うん…。
……そうだね、たったこれだけの手掛かりで、見付かることの方が稀か。

あれ、こちらは？
私はマルと申します。

…って、ああ、もう時間が！

私は、

［と口を開きかけたところ、あっという間に走り去ろうとする少女］

……ルイだ！
暫くこの場に滞在する！

［駆けていく少女に聞こえるよう声を張りつつ、手を振った］

挨拶もままならないままにすみませんっ。
この前、返したと思っていた本をまだ返していなかったようで…。また図書館にっ。
それでは、失礼しますっ。

寝てた！
レーズンパン、毎度あり！…寝てる。

暫く待つか。
おやつにいいよ、レーズンパン。

うぅ、なんで、どうして、一体何が……。

朝からおかしい……。
あるはずのものがなかったり、忘れ物したり…。
いっつも忘れ物していたころは確かにあったから、前日に用意しておくようにしておいたのに…。
タンスの角に小指をぶつけるし……。

そして……。

これが……極め付けで……。
あたしが貸し出し期限を忘れて？期限過ぎたと思ってた本を返して笑われたのなんかどうでもいいんです…。

でも、今日の新刊が……。
あんなにも楽しみにしていた、今日の新刊が…。

すでに、読んだことあった内容でした…。
しくしく。

ああ、きっとこれはそう、作者があまりに煮詰まってしまって、どこかの話をパクッてしまったんだ……。

ねえ、作者買い、ってしますか？
この人の本は面白い、次も読みたいって思って…。ああ、まだこの話は終わってなくって、まだ続きはあるけれどその日が来るまでは読めなくて、それが楽しみで。明日の生きる希望になるんですよ。

そんな、希望が今日裏切られてしまったことが悲しくて…しくしく。