ううん、村長じゃないよ。
村長から伝書鳩をもらって、此処に来たんだって。


時計、珍しい形だね。
中にお酒も入ったり…は、しないか。

あ、ひょっとしてお財布を落としちゃったのかしら。
そして、まだ替えてない硬貨が残ってたのね。

うん、きっとそう。そうなんだわ。
村はずれに行って替えて貰ってくるわ。

今なら夜の公演までに帰って来れるから、急いで行ってくるわ。
皆さん、またね**

それがな、こいつ、ちゃあんと酒も入れられるんだぜ。
……禁酒だのって噂も聞いたが、没収…大丈夫だよな？ …な？

それよか、パン屋の兄さん、"一日を繰り返す"って言ったか？
おいおい、つぅことは、とっときのブランデーを飲んでも次の日また戻るって寸法か。
そんな親切な奴ら、捕まえなくとも……、

…あー、でも、待てよ。
俺も時間を盗まれちまったら、それを覚えてねえってわけか……上手く行かねえな。

あれ？そうなんだ。
うん、いってらっしゃい。

…また変なことが起きたなあ。
村でお財布を落としたら、すぐに軽い騒ぎになるはずなのに。
スリだって、出るわけないし…。

あー、すまんな、姉さん。

俺も、ほとんどこの村の人間じゃねえんだ。
ラドルフって言う、…まあ、しがない傭兵だ。

しかしそうか、村長に見えたか。
そりゃあ俺に貫禄があるってことだぁな、うんうん。

禁酒…。あ、何か言ってたなあ。
多分それ、倉庫に向かった人に聞いたらいいかも。

ブランデーは…買った直後まで時間が戻るだけならいいかもしれないけど、買う前に時間が戻ったらまた買い直すことになるんじゃないかなあ。

街に、か。
たまに遊びに行くのはいいけど、やっぱりこの村が好きだし。
村のパン屋はぼくだけだからね。街に引っ越す予定はないよ。

少なくとも、ぼくが村長って言うよりは信憑性があるのは確かだよね。

………一応、叔父なんだけど。
全然似てないらしいよ。

あー、しまった、そうか！ そりゃ残念。

…しかしまあ、時間を盗むの一日を繰り返すの言ったってよ、俄かにゃ信じられねえわな。
昔、ばあさんから聞いたおとぎ話じゃあるめえし。

大体よ、村長が言うみてえに、同じ一日を繰り返してる奴が本当にいるとしても……普通に考えたら、単なる記憶喪失じゃねえのか、そりゃあ。

お酒も入る時計って面白いなあ。
気分次第で、詰め替えるとか？

旅のお供にいい時計なんだろうなあ。

だよねえ。
ぼくも証明はしづらいようには思う。

けど、村長も特別な時計を持ってるらしくて。
今、調査中だってさ。
普通の役人さんはあてにならないからって。

あ！時間…なんだっけ？の役人さん、こんにちは。
埃まみれ…大丈夫？

確かに資料通りの物は揃っていますね
とりあえずはこのまま手続きを進めてもよさそうですが
[と、ふと辺りに人が集まりだしているのが視界に入る]

おや、皆さんお集まりですｋ……ケホッ

…ご説明したいところですけれど、先に一度家で風呂に浸かってから出直してまいりますね

いってらっしゃい。
確かに、お風呂入らないと…。きついだろうね。
お役人さん、大変。

へえ、パン屋の兄さんは村長殿の親類か。
手紙からは、なかなかやり手そうな男ってえ印象を受けたが。

ん、さっきの埃まみれの兄さんも、今回の騒動に絡んで呼ばれた奴みてえだな。

……って、げっ。あいつが役人なのか。
大丈夫か、俺の酒…もとい時計。没収されたりしねえだろな。

パン屋の兄さんの時計は、意匠が凝ってんなあ。
やっぱ、パン屋だからそういう時計なわけか？

俺のは、大抵気つけにブランデーを入れてんぜ。
たまーに、葡萄酒やら変わった酒を詰めることもあるけどな。

さあてと、俺は一杯ひっかけ……るのは、今はやめといたほうがよさそうだ……。
代わりに、おとなしくチーズパン食ってるか。

まあ、親類だからって特にいいことがあるわけじゃないけどね。
やり手、かあ。
少なくとも、そこそこ信頼はされてるとは思うけど。

役人さん…おおっぴらに目の前で飲まなかったら、見逃して…くれないのかなあ。
どうだろ。

そうだね。
パン屋だからだと思う。

ブランデー、たまに葡萄酒。
聞いてるだけで酔いそうだなあ…。
あ、チーズパンのお代わりはまだあるよ。

はぁ、面倒な事になったものだ
この時計を使うなんて数百年に一度あるかないかだって聞いていたのによりによって僕の年に来なくたっていいじゃないか

[掌よりも一回り大きな真鍮製の時計をじっと眺めている]

こんばんは、……この村のお役人さん？

その書類、全部泥棒探しに関する資料なのかな。
……ねえ、話し合いはいつ始まるんだろう。
カレンダーも手帳も役に立たないから、あんまり遠いと日付感覚がなくなってしまいそうだ。