うーん…？
あ。ヨハンさん、昨日はフランスパンありがとうございました。
でも、また盗まれてしまってっ。
この泥棒がおかしくて、図書館に返した本を家に戻してるんです。
変ですよねぇ。ストーカー…？

……っっ、

［蹲って鼻に手をやる。出血はなし］

…あててて、慣れないことはするもんじゃないな。
ただでさえ低い鼻が、さらに潰れてしまう。

［埃をはらい、表紙をしげしげと眺める］

……ふむ。これも明日になれば、自動で図書館に舞い戻ったり、挟んだ栞が消え去ったりするんだろうか。

おや、マル、こんばんは。

うとうとしながら聞いたヨハンの話が夢でないのなら、この村では時間泥棒なる悪党が悪戯を繰り返している…ってことになるのか。
…一体どんなカラクリなんだろう。

村の人たちは、一向に私の顔を覚えてくれる気配がなくって、どれだけ話が盛り上がったとしても、日をまたげば挨拶の言葉は「はじめまして」に戻っているんだ。
旅人に対する、村ぐるみのドッキリではないんだよね？

結局レーズンパンを買い逃し続けている…。
これも時間泥棒の仕業だったりするのかな。
ヨハンからパンを購入する時間を盗まれている！…とか。

［ふと、財布の中に仕舞っていたチラシを手にとった。
書かれているのは、旅の劇団の公演日程。過去の日付が記されている。

異国の踊り子の写真を眺めながら、暫し物思いに沈む**］

刺青禁止は僕には関係ないけど
さすがに飲酒禁止は厳しいよな…
とんだとばっちり食ったものだ

この禁酒期間早く終わってくれよ

おっと、失礼いたしました
時間担当局の緊急時実務担当官のギュンターと申します
村長よりご依頼の『時間及び時計に関する不正の調査と執行権限の与譲』について決裁がおりましたのでご報告申し上げます

[書類と一緒に持っていた真鍮製の大きな懐中時計の背面には『時間担当局所有』と刻印されている]

寝てた。おっはよー…ってあれ？
なんか今、誰か来てたのかな。

[眠い目を擦りながら、大あくび。]

時間担当…なんだっけ？
役所にそんな部署あったんだなあ。知らなかった。

あ、レーズンパンはまだあるよ。
焼きたてではないけど、柔らかいよ。

こんにちは？ 今の時間の挨拶はこんにちは、で大丈夫よね？
なんだか挨拶を確かめる癖がついてしまったわ。

やっぱり、まだ仲間がおかしいのよ。私がおかしいのかしら？
昨夜も公演があったのよ。私は踊るのは好きだから構わないけど。

仲間の奇術師がね、いつもは連続公演は嫌がるの。
なのに嬉々として準備してたのよ。不思議ね。

もし連続公演になったとしても、いつもは奇術のタネが見破られるから、って違う演目をするのよ。
なのに、もう同じ演目が何日も続けてやってるのよ。

誰にも見破られないタネを考え付いたのかしら？

あら、レーズンパンがあるのね。
頂きたいわ。

旅をするから、どうしても保存食ばかりになってしまって。
柔らかいパンなんて何年ぶりかしら…。

よーし、このラドルフ様が来たからにゃ、心配要らねえ！
盗人とやらはどこだ、ふんじばって街までしょっぴいてやる！

…へ？ まだ見つかってねえ？

おいおいおい、そういうことは早く言ってくれよ、早く……。

うっわびっくりした！
…いやまあ、見付かりにくいみたいだよ。
なんせ、盗むのが時間なわけだし。

で、村長に言われて来たの？


まあ、パンを食べて一息つこうよ。お金は取るけど。

…でよ、何が盗まれたんだ、一体？
ここへ来る途中、パンが盗まれただの本が盗まれただのって、又聞きの噂だけは色々聞いたが。


…しっかし、久々の故郷は変わんねえや。

知らねえ顔も結構いるが、ガキん頃遊んだ懐かしい奴らにも会いてえもんだな。

にしても、奇術の件は変だね。
何回くらい連続で公演やってる？

今まで演目被るの嫌がっていたなら、違和感があるんだけど…。
いっそ、見破れないタネを見つけたのか聞いてみるとか…だめか。

んー。
色々話を聞いてるんだけど、どうも総合すると細かい色々な盗難？は時間泥棒が入り込んだからじゃないかって。いや、ぼくも半信半疑だけどさ。

あと、今朝がた時間なんとかって部署の人が倉庫へ点検に来たし。
村長ならもう少し何か知ってるかもしれないけど、捕まらなくてね。