いや、俺にも懐いてるわけじゃねえからよ。
まあ、ほとんど故郷にゃ戻らねえともなれば、無理もねえ話だ。

…あんま飲みすぎるなよ。
飲み口はいい酒だが、案外強えからな。

[気遣わしげに見やった後、グラスをぐいと傾ける。]

俺のばあさんに？
いいぜ、明日にでも連れてってやる。
村で一番大きな一本杉の近くの家だ。

[底にわずか残った液体を、眇めるように眉を寄せて眺め]

……つっても、お前さんのこと連れてった日にゃ、時計のことを抜きにしても、あれこれ質問責めにされそうだ。…あー、いや、こっちの話、な。

そうか。
ラドルフがその猫と親しい間柄だったなら、紹介してくれないかなあと…あわよくば触らせて貰えないかなと思ったりしたのだけど。ちぇ。

…うん、大丈夫。
おいしい。

[3分の1ほど減ったグラスを持ち直す。吐く息に少し熱がこもるものの、上機嫌に笑った]

ありがとう、

[返してから、はたと己の服装を見下ろす。
長旅に耐えられるよう作られた、丈夫な仕立ての衣服たち。
渋い色合いのマントの裾を、握ってから離した]

…今更になって見た目を取り繕っても、…かな。

[他所事に気を取られていたせいで独り言を聞き漏らしたらしい。首を傾げ]

……何？質問責め？

薬草酒、かあ。
…ニガヨモギって聞いたら思い出すのはあれしかないんだけど…。

うーん？

[朝食用にと集会場のテーブルにチーズ入りパンを置いて去っていった。]

……ん。

[目を覚まして、椅子に寄りかかった体勢のまま伸びをする。
かけられた見慣れたマントに目を留めた。]

これ、……かけてくれたのか。

[ぎこちなくマントを畳むうち、ふと持ち主のゆうべの様子を思い出して手を止めた。
よくあの状況で眠れたよな、と苦笑して、手元の使い込まれた生地をじっと見つめる。]

[籠の中のチーズパンで腹ごしらえがてら、外から差し込む日光に眩しげに目を細めた。
スキットル型の時計を取り出して眺め]

そういや、ルイをばあさんちに連れてってやる約束になってたっけな。
そろそろ出ねえと。

[マントを抱えると、椅子から立ち上がった**]

[集会場の壁にもたれて立ち、じっと手の中の書類を見つめている]

集会場の使用手続き、期限は今日まで、か……
明日になれば村を出ていく人もいるんだよな

[重い足取りで集会所に向かう]

最後の公演も、終わっちゃった…。


ギュンターはどうするのかしら。
…お役所、辞めさせられるのかしら。

もし、そうなら…
そうなのだったら、私たちと一緒に…


なーんて、なかなか言えないわよね。
[小さくため息]

[はた、と気付いて足を止め、]

あら、そうか…。
時計泥棒さんなら、辞めさせられるかもしれないけど、

時間泥棒さん、は…どうなのかしら。


彼が泥棒だった証拠なんて、何も無いんじゃないかしら、ね。
だって…時間が繰り返されてた事なんて、誰も覚えてないんだもの。

そうか。

そっか…。

じゃ、一緒に、なんて…夢のまた夢だったのだわ。

[決めた！ というように]

うん、そうね。
私のしたいようにするわ。

私が居なくたって、仲間たちに何ら問題は無いもの。
踊り娘はそろそろ交替の時期よ。
クラーラなら大丈夫。きっと出来る。
そうやって代替わりして来たんだもの。

まずは団長にちゃんと言わなくちゃ。
[踵を返し仲間たちの元に向かった]

[壁にもたれたままズルズルと座りこんでしまう]

時間なんか盗まなくたって、同じような日々が繰り返されるだけのこの村で、楽しい事なんかないだろ…

結局旅の一座の公演だって仕事で一度も見に行けなかったもんな
あの人も、今頃は天幕片付けたり旅の支度してるのかな

[一瞬くしゃりと歪んだ顔を書類で隠すようにして俯いた]

こんばんは！ ごきげんよう！

[息を切らしつつ、集会所を見渡しギュンターを見つけ]

ふふ、こんばんは。


ね、ギュンター。
ひとつ聞きたい事があるの。よろしくて？

あのね。
おしとやかにしてるけど、本当はお転婆な女、ってお嫌いかしら？
気の強い女は…嫌い、かしら？

もし、もしも、
そんな女も嫌いじゃない、なら…えっと、その。

[意を決したように]

あのね、だから…。

ギュンターのそばに居たくって、踊り子を辞めた女は、お嫌いかしら？