泣きじゃくったあと、せめてもの弔いにと、土を被せ、近くに咲いていた花をそえる。こんなことをしても、自分の罪が許されるわけではないけれど。わたしの心はまだ人間なのだと思いたかった。

一度狩りを行ったせいか、あの焼きつくような胸の苦しみと、喉の渇きはかなり薄れていた。けれど、いつまた餓え、あのときのような獣になるか、自分でもわからなかった。
不安で仕方が無かったけれど、あまり気にしてもまた仕方の無いことだと言い聞かせ、胸の前で手を組み、目を閉じて祈りを捧げる。

（…どうか、これ以上、誰も、傷つけないでいられますように……）

パン屋へ足を運ぶと、ホラントさんがヨハンさんと話をしていた。噂話の好きな彼は、いつもどこからか仕入れてきた噂を誰かに聞かせている。
それはごくありふれた日常の光景。聞こえてくる二人の声に耳を欹ててみる。

『この間仕入れにいったとき、どこかの村で人狼が出たって噂をオットーさんから聞いたんだけど。嫌な噂が蔓延してるね。』
『 莫迦だなぁ、噂は噂に過ぎないのに。でもさちょっと気になる話しを聞いてね。　実はさ……。』

麓の森の中で旅人の死体が見つかったって。
それも人に襲われた傷じゃない、大きな獣の爪に切り裂かれたような傷を負っていたっていうじゃないか。
人狼とかいう化け物の仕業だと思うね、僕は。

ホラントさんの話に、血の気が一気にひいた。なぜ、なぜ、どうして？なんで？

『それって本当なの？』
『ああ、ご丁寧に墓もどきは作られてたんだけど。逆に不審に思ったどっかの猟師が掘り返したらしくて。そしたら死体とご対面、ってわけ。猟師仲間も見てるそうだし、間違いないだろう。』

震える手を必死に抑えながらライ麦パンを手に取り、お会計おねがいしますと、ヨハンさんに声をかけ
代金を支払って店を出た。パンの入った袋を胸元に抱きしめて一心不乱に家まで歩く。

――――　どうしよう、どうしよう。

ホラントさんのその話は、瞬く間に小さな村に伝播して。
村の近くの森で化け物らしきものに襲われた死体が見つかったとなれば、誰もが警戒せざるを得ない。
皆が少しずつ疑心暗鬼に苛まれていく。
（一番、疑心暗鬼に陥っていたのはわたしだったけど）

ホラントさん、もしかしたらもっと話を知っているかもしれない。彼の話は大抵がホラだったりするが、情報の量だけでいえば侮れないものがあった。
どこからかまた妙な噂を聞きつけて来るかもしれないし、その噂の真偽を質しに異端審問官が来るかもしれない。その恐怖で。

わたしは、ホラントさんを手にかけようと、心に決めた。

/* 予想以上に長かった。ひとり狼なのに赤のばしまくってすみません（土下埋まり）けど、たの、しい。*/